ヒトコトあらすじ
人間の騎士・フルトブラントと水の精・ウンディーネが恋に落ちて結ばれるが、最後には両方が消えさり、哀しくも美しい運命をたどる物語となっています。
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●1.基本データ
Lキャラクター構成
L舞台設定
L詳しいプロット(展開)
L文章抜粋
L作者について
L同じ作者の他作品
L同じ年代の有名作品
L同じ国の有名作家
●2.社会データ
L歴史的背景
L社会に与えた影響
Lメディア化
●3.類推データ
Lココがスゴい!
L似ている名作
L似ている最近の作品
1.基本データ
Amazon(ちくま文庫):https://amzn.to/3qffhyF
初刊:1811年 作者:フリードリヒ・フケー
長さ:中編 ジャンル:恋愛・悲劇・ファンタジー
キャラクター構成
ウンディーネ・・・・水の精。本作のヒロインであり主人公。
フルトブラント(騎士)・・・・森で出逢ったウンディーネに恋をする騎士。結ばれるもウンディーネ自身の手によって葬られる。
キューレボルン・・・・ウンディーネの伯父。同じく水の精。ウンディーネの人間との交流を妨げようと、悪いイタズラを仕掛けてくる。
ベルタルダ・・・・フルトブラントの想い人。ウンディーネ消失のあとにフルトブラントと婚姻を結ぶ。
ハイルマン神父・・・・漂流してきた司祭。
舞台
妖し森・・・年老いた漁夫妻とウンディーネが住んでいた森。怪物たちが住んでいるとして町の住人からは恐れられている。フルトブラントが迷い込み、ウンディーネと出会う場所。
リングシュテッテン城・・・フルトブラント・ウンディーネが・ベルタルダが住むことになる城。フルトブラントが命を落とす。
黒い谷(シュヴァルツタール)・・・ベルタルダを追ってフルトブラントとウンディーネが向かった危険な谷。
詳しいプロット(展開)
●妖しい森に住む漁夫婦とその養女・ウンディーネ
ある森の奥深く――その湖の近くに漁夫婦が住んでいました。そして夫婦のあいだには美しい養女・ウンディーネが同居していた。しかしその森には魔物が住んでいるという噂が立っており、だれも近づこうとする者はいなかったのです。
●森に迷いこんだ「騎士・フルトブラント」
しかしそんな妖しい森にひとりの騎士・フルトブラントが迷い込みます。
漁夫は、漁の途中でフルトブラントに遭遇し、彼の一晩だけ泊めてほしいという要望を受け入れるのでした。
●ウンディーネとの出逢い
漁夫の小屋を訪ねると、そこには妻が住んでいた。三人とも気立てがよく、すぐに談笑の花が咲いた。
だがまもなくすると小窓からときどき、水の音が聞こえてきます。どうやらそれは、窓に水が打ち付けられる音でした。
しばらく気にしていないふりをしていた漁夫婦でしたが、まもなく養女も住んでいることを白状します。
窓の水は養女・ウンディーネの仕業であり、ふたりはいたずら好きな年頃の少女に少々困っている様子だった。
まもなくウンディーネが戸口に現れる。その愛くるしい姿にフルトブラントは見惚れてしまう。
しかしたちまち両親と口論となったウンディーネは小屋を出て行ってしまった。
フルトブラントは後を追いかけるように、ウンディーネの名前を叫ぶが姿を現さない。妻はやれやれといった様子で寝床へ入ってしまう。
そこで漁夫とふたりきりになったフルトブラントは、ウンディーネがどういういきさつで漁夫のもとにやってきたのか訊くことにした。
●ウンディーネと漁夫の過去
十五年前。漁夫は商いのため、妖し森を抜けて町へ出かけていた。
いっぽうの妻は留守番をしていた。というのも二人の間には一人の実娘がいたからだ。すでに高齢だった夫婦のあいだに産まれた大事な一人娘。ふたりは大層その娘を愛していました。
しかし漁夫が帰ってくると、妻が涙を流しながら出迎えた。どうやら湖のほとりで戯れていたところ、娘が湖に落ちてしまったのだという。漁夫は必死に亡骸を探しましたが娘が見つかることはありませんでした。
するとその晩、哀しみに暮れている漁夫婦のもとに、三、四歳ぐらいの少女が水に濡れそぼった姿で現れる。漁夫婦は失った実娘の代わりにウンディーネを育てることにしたのでした。
●ウンディーネを連れ帰る
過去のウンディーネとのいきさつを話していた二人でしたが、そのうち外が嵐になってしまう。
心配になったふたりはウンディーネを探し行くことにした。
やがてフルトブラントは、枝の間に隠れていたウンディーネを見つけ、彼女の唄に魅了されながらもなんとか小屋に連れ帰ります。
●騎士が森にきた理由
小屋に戻った一行。まもなくフルトブラントは、森にやってきたいきさつを語りはじめる。
八日ほど前、町で行われていた馬上競技や槍投げ大会に参加していたフルトブラントだったが、綺麗な女性の姿が目に飛び込んできた。
彼女はベルタルダといい、その地に住む有力な養女だった。
やがてその大会で勇敢な武芸をおさめたフルトブラントは、その晩の舞踏会にてベルタルダの相手をつとめることとなった。
だが彼女は気位が高く、『一人で妖しの森へ行き、森がどんなものなのか知らせをよこすなら、あなたに手袋をあげてもいい』という愛の証明を要求してきた。
フルトブラントはそれに応じた。そうして森へ入り、小人や子鬼に襲われながらも、ここまでやって来たのだという。
そんな中で、嫉妬したウンディーネがフルトブラントの指に噛みついて、ベルタルダの話を遮るなどといった行為をやってみせたりするのだった。
●嵐がやってくる
話しているあいだにもどんどんと嵐が強くなっていきました。一日、一日と渓流の流れはどんどん激しくなり、川床は削れていく。そしてとうとう、小屋のある岬は離れ小島になり、四人は人里から切り離されてしまう。
いっぽうで孤島になったことでフルトブラントとウンディーネの仲はどんどん深まっていき、漁夫婦は若い二人の仲良しぶりを温かく見守っているのでした。
●漂流していた司祭
4人での暮らしが続いていたある日、舟を流されて漂流した司祭が小屋を訪ねてきます。
すると司祭の話のどさくさに紛れて、フルトブラントがウンディーネとの婚儀をうけおって欲しいと司祭に進言します。
そしてふたりは結婚するのでした。
●結婚後のウンディーネ
結婚後のウンディーネは、突然人が変わったように素直でやさしい娘に変容します。あれほど反抗的だった漁夫妻に対して感謝を述べたり炊事を手伝ったりと、まるで別人です。
●ウンディーネの正体
夕暮れ時、ウンディーネはやさしくフルトブラントの腕にすがり、戸口の外へと連れ出します。
そしてフルトブラントに、ウンディーネは自分が水の精であることを告げます。
さらにもしもフルトブラントに見捨てられた場合は、手に入れた魂(こころ)を失い、精神も肉体も雲散霧消してしまい、水の中に戻らなければならないという事実を打ち明けてきます。
それに対してフルトブラントは涙を流しながら熱い口づけをして、やさしい妻をけっして見捨てることはないと誓うのでした。
●森を出て、町へとむかう
洪水はしだいに引いていき、フルトブラントがふたたび町へもどれるチャンスがやってきました。しかし小屋での満ち足りた夫婦生活に満足していたフルトブラントはずっとこの森にいようと考える。しかしウンディーネが思いがけず、自分が水の精であるという真実を、これ以上漁夫婦に隠し通せる自信が無いと言い出す。
それにより、司祭を伴った三人は森を出て町を目指すこととなりました。
いっぽう町では、森を大洪水がおそったという事が広まっており旅人・フルトブラントはすでに命を落としたという噂が広まっていました。
しかしおもいがけないフルトブラントの凱旋に、町の住人は大喜びするのでした。
でも一人だけ喜びの輪から外れているものがいました。それはベルタルダです。なぜならフルトブラントは、自分を差し置いてウンディーネという絶世の美女を連れて帰ってきたからでした。そのため最初は微妙な関係だったウンディーネとベルタルダでしたが、しだいに打ち解けていくのでした。
●伯父・キューレボルン
フルトブラント、ウンディーネ、ベルタルダの三人はリングシュテッテン城へと向かう手筈を整えていましたが、ウンディーネの伯父であり、同じ水の精のキューレボルンが現れ、ウンディーネは耳打ちされます。
フルトブラントが何を言われたのか尋ねると、ウンディーネはベルタルダに嬉しい報せがあるというのだった。
●ベルタルダの親
ベルダルタの聖名の祝日、ウンディーネは唄に乗せて、ベルタルダの本当の両親が自分の育ての親”漁夫婦”であったという事を告げます。その場にいた漁夫婦は泣き崩れながらベルタルダへと抱きつきます。しかしベルタルダは抱擁の手を振りほどきます。
気位の高いベルタルダは、自分はもっと良い家系の生まれだったのだと確信していたのに、みずぼらしい漁夫婦が両親であるという事実を受け入れられなかったのです。そればかりか、そういった恥ずべき事実を面前で伝えてきた恋敵・ウンディーネをひどくなじり、また漁夫婦へも強い罵声をあびせるのでした。
●暮らし始める若三人
ベルタルダの一件後、リングシュテッテン城へと向かおうとしていたフルトブラントとウンディーネの前に、漁師の格好をしたベルタルダが現れます。ベルタルダは前日の下品なふるまいによって、養い親に愛想をつかされて縁を切られていたのでした。さらに実の両親である漁夫妻にも助けを求めましたが、『漁師にふさわしい格好をした上、”ひとり”で妖し森を通ってくることが条件だ』と言われ尻込みしていました。
そんなベルタルダをかわいそうに思ったふたりは、自分たちとともにリングシュテッテン城で暮らそうと手を差し伸べるのでした。
●井戸をめぐっての騒動
リングシュテッテン城での暮らしは、思っていたよりも穏やかではありませんでした。
ひとつに、井戸を巡ってウンディーネとベルタルダは争い始めたこと。井戸を通って”伯父・キューレボルン”が悪さをしにやってくる事を恐れて、ウンディーネが城の泉を石でふさぐようにと下男たちに言いつけるのですが、ベルタルダは自分の肌によく効く水だからふさいではならないと両者が争いになります。
最終的にはフルトブラントがウンディーネを肩を持ち、ベルタルダを責めます。
結果、ベルタルダは惨めな思いから漁夫婦のもとへと戻るという内容の手紙を残して去ってしまいます。友人を失ったウンディーネはフルトブラントに連れ戻すように懇願します。
フルトブラントはベルタルダを追って<黒い谷(シュヴァルツタール)>へと向かいます。するとキューレボルンの作り出した水の物の怪などに襲われます。
しかし間一髪のところでウンディーネが現れ、水を叱りつけると、恐ろしい波濤は消えていきました。そしてなんとか三人はリングシュテッテン城へ生還を果たしました。
●ドナウ川下り
フルトブラントは、<黒い谷>での一件にて助けてもらったという事もあり、ウンディーネに対してより強い敬意や信頼を認めるようになっていました。
しかしそれはドナウ川下りへ三人で出かけているときでした。誰が見ても不自然に川が荒れはじめ、水中から怪物が姿を見せたりします。
そういった状況から、フルトブラントは『同じ種族の者と一緒にならず、人間と海の乙女が世にも奇妙な縁で結ばれたせいだ』などとおもいはじめ、自分に降りかかる災難から、ウンディーネを憎しみはじめるようになります。
そしてついに、水辺でウンディーネを叱ってはならないという誓約を忘れて、フルトブラントはウンディーネを罵ってしまいます。
ウンディーネは悲しみの涙を流しながら、『消えてしまっても自分が親族からフルブラントたちを守ること、そして私(ウンディーネ)を裏切らないでほしい』という言葉を残して水の中へと消えてしまいました。
ウンディーネが消えてしまったことで後悔したフルトブラントは泣き崩れるのでした。
●ベルタルダとの結婚
ウンディーネを失って哀しんでいたフルトブラントでしたが、時が過ぎたことでその哀しみもしだいに薄らいでいきました。
そしてフルトブラントは残されたベルタルダとの結婚を決めます。
それでも婚礼の晩、ベルタルダは結婚前に気になっていたそばかすを消したいと言いだしたため、下男たちがかつて閉ざした泉の石を持ち上げる作業をはじめます。
石が外れると、白い噴水とともに花嫁のようなヴェールを被ったウンディーネが現れたのでした。
●ウンディーネの道連れで…
ウンディーネの登場に城の奉公人たちは逃げ出します。ウンディーネはそのままフルトブラントの方へと向かいます。
そしてウンディーネに再会したフルトブラントはは『婚礼の寝床に入らなければならない』と訴えます。
しかしウンディーネは『そうあなたは寝床に入らなければなりません、ただ冷たい死の床ですが!』と言い返す。
するとフルトブラントは、全てを悟ったのか『私を裁いてくれ』と言い、ウンディーネはフルトブラントを抱きしめて口づけし、そのまま窒息させるのでした。
●葬儀にて
フルトブラントの葬儀が行われた。ハイルマン神父はベルタルダを慰めるものの、動揺しており何の効果も無かった。漁夫婦などもかけつけていたが”仕方ない”とどこかあきらめた様子だった。
そんななかベルタルダは招かれざる女が出席していることに気づき、立ち去るように命じるが彼女はそれに応じない。そればかりか懇願するように両の手をベルタルダに差し出してきた。ベルタルダはその仕草が、かつて珊瑚の首飾りをベルタルダに贈ろうとした時の手付きを想起して涙を流した。
やがてハイルマン神父の黙祷の号によって全員がひざまずく。そして一同が立ち上がった時、招かれざる女の姿はもう無かった。
しかしその女がひざまずいていた下草からは銀色に輝く湧き水が溢れ出ていた。その流れはやがて騎士の眠る墓丘をほとんど取り囲むほどとなっているのだった。
後世の人々はこの源泉のことをウンディーネと信じ、ウンディーネがいつまでも大好きだった騎士を抱きしめているのだと言い伝えている。
文章抜粋
● そう言うと、すぐに騎士がいることに気づき、驚いた様子で美しい若者の前で足をとめたのです。フルトブラントはその愛くるしい姿に見とれ、かわいらしい顔かたちを心に刻もうとつとめました。
●ウンディーネ「こうして今わたしは魂(こころ)を吹き込まれました。あなたのおかげで魂(こころ)を得たのです。言葉にできないくらい愛しているあなたのおかげです。
●後の世になっても村人たちは、この泉源を指して、これはあの哀れな捨てられたウンディーネだ、と信じていたそうです。ウンディーネがこうして、いつまでもそのやさしい腕で、大好きだった騎士を抱きしめているのだ、と。(最後の一文)
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作者について
フリードリヒ・フケードイツの作家。元軍人という経歴を持つ。
同じ作者の他作品
- 『ウンディーネ』1811 ※今作
- 『Sintram and his companions』1814
- 『Sängerliebe』1816
- 『The Seasons: 4 Romances. (1. Spring: Undine. 2. Summer: …』1843
- 『The German Language in One Volume』1851
同じ年代の有名作品
- 「湖上の美人」ウォルター・スコット(イギリス1810)
- 「分別と多感」ジェイン・オースティン(イギリス1811)
- 「スイスのロビンソン」フリードリヒ・ニーチェ(スイス1812)
同じ国の有名作家
- ヨハン・ヴォルフガング・フォン。ゲーテ(ドイツ)
- アヒム・フォン・アルニム(ドイツ)
- アーデルベルト・フォン・シャミッソー(ドイツ)
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2.社会データ
歴史的背景
1806年にドイツは、首都であるベルリンをナポレオンによって占領されます。それによって自治権を得るなどさまざまな変革が起きます。そして今作が発刊された1811年頃には、「ベルリンタ刊新聞」などが発行されたりしています。
社会に与えた影響
●水の精(セルキー、ウンディーネ)という概念をより強めた作品
「水の精の概念」自体は、今作よりも前からあったそうですが、本作以降の水精の娯楽物は、今作をもとに制作されていることが多いらしく、チャイコフスキー、ジロドゥ、ボードレールなど名だたる著作家たちが自らのフィールドで作品にしたためています。
日本の西洋ファンタジー作品などでも、もはやウンディーネがいなければファンタジーではないというぐらい定番なキャラクターとしてデフォルメされています。
メディア化
2018年のアイルランド映画「オンディーヌ 海辺の恋人」。舞台設定は現代かつアイルランドですが、漁師や水の精という設定、娘が海に落下するなど、端々に今作のオマージュを感じる作品となっていました。>>Amazonビデオ
また2020年には映画「水を抱く女」という映画も制作されています。今作「ウンディーネ」を現代風にリライトした作品になっているそうです。>>公式サイト
3.類推データ
ココがスゴい!
ファンタジー要素を巧みに取り入れた恋愛悲劇
「水の精」というファンタジー要素を取り入れた恋愛モノとなっている今作。ありきたりな現実男女の恋愛を描くのではなく、水の精という非現実要素が交じることで、ノンフィクションの舞台では描ききれないロマンチックなシチュエーションや駆け引きなどが創り出されています。
ラストもありきたりなハッピーエンドではなく、当事者がふたりとも死んでしまうというバッドエンド。そういった部分は、どこか「ロミオとジュリエット」のような名作恋愛悲劇に共通するエッセンスも感じられます。しかしそこは、棺を囲むように泉が湧くというファンタジー要素を取り入れたラストにすることで巧く名作たちと差別化しているのも魅力ではないでしょうか。
似ている名作
●「オンディーヌ」ジャン・ジロドゥ
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フランスの劇作家「ジャン・ジロドゥ」が制作した恋愛悲劇。今作「水の精(ウンディーネ)」を下地に制作された演劇だそうなので、時代を経てどのようにリメイクされているのか、その違いを読み比べてみるのも面白いのではないかと思います。
似ている最近の作品
●School Days-スクールデイズ-
ゲーム原作のTVアニメ。鬱アニメとして非常に有名です。
ヒロインが男を◯してしまう展開や、ヒロイン二人による三角関係などといった構造が似ていると思われます。※ネタバレは控えたいので詳細はぜひ視聴して確かめて観てください
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