「女の一生」あらすじと解説・登場人物や舞台 ギ・ド・モーパッサン



ヒトコトあらすじ


恵まれた家系に産まれた主人公・ジャンヌが、現実という荒波に揉まれて苦悩してゆくうちに、人生の理を悟っていく、という物語になっています。


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●1.基本データ
 Lキャラクター構成
  L舞台設定
 L詳しいプロット(展開)
 L文章抜粋
 L作者について
  L同じ作者の他作品
  L同じ年代の有名作品
    L同じ国の有名作家


●2.社会データ
 L歴史的背景
 L社会に与えた影響
 Lメディア化


●3.類推データ
 Lココがスゴい!
 L似ている名作
 L似ている最近の作品 



1.基本データ


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初刊:1883年 :ギ・ド・モーパッサン
長さ:長編 ジャンル:一代記・恋愛




キャラクター構成



ジャンヌ・ル・ベルチュイ・デ・ヴォ・
・・・主人公。富のある家系に生まれるも、結婚を境にさまざまな波乱に巻き込まれていく。

ジュリアン・デ・ラマール・・・ジャンヌの夫。多くの不貞を働いて、最終的にはフールヴィル伯爵によって殺される。

ポール・・・ジャンヌ&ジュリアンの息子。青年期になるとさまざまな非行によってジャンヌを悩ませる。レ・プープル屋敷を出ていったあとも、事業の失敗などでジャンヌに経済工面の手紙をたびたび送ってくる。

ロザリ・・・ジャンヌの乳姉妹かつ小間使い。恰幅の良いノルマンディ女。ジュリアンに半ば強引に不倫を迫られ、それが原因となって屋敷を追い出されることとなる。しかし両親や息子を失い、孤独となったジャンヌの前にふたたび戻ると、無償で援助をするようになるやさしい人物。

シモン=ジャック・ル・ベルチュイ・デ・ヴォ男爵・・・ジャンヌの父。良い人柄の持ち主。

アデライド男爵夫人・・・ジャンヌの母。恰幅の良い女性。死後にかつて恋人がいたという事実が明らかになる。

リゾン叔母・・・アデライト男爵夫人(母)の妹。独身女性。

フールヴィル伯爵・・・ポールが産まれたあとに知り合う。ジルベルトの夫。ジュリアンとジルベルトの不貞をトルビアック神父から聞き、二人を小屋ごと谷底に突き落とす。

ジルベルト伯爵夫人・・・フールヴィル伯爵の妻。ジュリアンと不倫関係となる。

ピコ神父・・・老司祭。まもなくトルビアック神父と入れ替わる。

トルビアック神父・・・ピコ神父の代わりに転属してきた神父。ジュリアンとジルベルトの不貞現場を目撃する。


舞台



レ・プープル屋敷・・・ノルマンディ海岸にあるジャンヌ両親の屋敷。物語が展開されるジャンヌの住処。最終的には経済的理由で手放すこととなる。



詳しいプロット(展開)


●裕福な家庭に産まれたジャンヌ

 17歳を迎えたジャンヌが、両親らと避暑地であるレ・プープル屋敷へ馬車を走らせているシーンから物語は始まります。

 ジャンヌの父である男爵は、親から31もの農地を引き継ぎましたが、そのうちの9ヶ所をすでに手放しているのでした。男爵は善良ゆえ、気前よく振る舞うことで余計な出費が目立つような、良き人柄でした。それでも年間にすればかなりの地代収入があったため、裕福なことに変わりはありませんでした。一方ジャンヌの母・アデライトも恰幅の良い女性で、「私の運動時間」と呼びながら家族に手を取ってもらい優雅に散歩するような、そんな人物でした。

 そんな両親のもとに生まれたジャンヌは5年間の修道院生活を終えて、ようやくやってくる新しい生活に心を踊らせるのでした。そしてジャンヌの期待通り、レ・プープル屋敷での生活は、海で泳いだり、田園風景を散策したり、のんびりと読書をしたりと、まさに至福に満ちた時間なのでした。

●後に夫となるジュリアンに出会い、結ばれる

 そんなある日、ピコ神父のミサへ出席した際に子爵ジュリアンに出会います。彼は容姿端麗でジャンヌは彼に対して良い印象を抱きます。

 その後、ジュリアンが屋敷を訪ねてくるようになり、二人の仲はより親密なものになっていきます。

 まもなく男爵(父)がジャンヌの部屋へ訪ねてきて、ジュリアンが結婚したいと申し出てきたということを告げてきます。実はジュリアンは親族がおらず天涯孤独。故に大したお金もあまりありませんでした。ですが気の良い男爵(父)は、ジャンヌの気持ちを優先するという事だったため、ジャンヌは結婚を承諾することにしました。

 結婚式が開かれ、そしてコルシカ島へ新婚旅行へ向かいます。初夜の性交渉での痛みからロマンチックな気分が失せかけていたジャンヌでしたが、旅行のあいだに少しずつ性に目覚めたジャンヌは、ジュリアンとより愛し合うようになるのでした。

●結婚後、夫への不信を強めてゆくジャンヌ

 しかし旅行の道すがらで、執拗なまでの値切り交渉や、ジャンヌの預けた財布を返してくれなかったりと、ジュリアンのケチな一面を目の当たりにしたジャンヌは、徐々にジュリアンに対しての不信を感じるようになりました。旅行後もそれは続き、ウマの飼料を惜しんだり、男爵(父)の財産に対する管理不足を攻め立てるなど、徐々にジュリアンの別の一面が表出していくのでした。

●使用人ロザリが妊娠、ジュリアンの子だと発覚

 ケチなジュリアンの一面に不満を抱きながらも生活を続けていたジャンヌでしたが、ある日、使用人であり乳姉妹のロザリが子どもを妊娠していることが発覚します。ジュリアンはロザリを追い出すように命じますが、幼い頃より仲良くしてきたロザリを追い出したくはないとジャンヌは反発します。

 ですがそんな渦中のなかで、ジュリアンとロザリがベットに一緒にいるところをジャンヌは目撃してしまいます。あまりの衝撃から極寒の外へと飛び出して、絶壁から身を投げ出そうとしますが、やさしい両親のことが頭をよぎりジャンヌは躊躇します。やがてやってきたジュリアンらにジャンヌは連れ戻されるのでした。

 前日の厳寒のなかでの逃亡がたたって、ジャンヌは熱を出してしまいます。体調が少し回復すると、ピコ神父と両親を含めたロザリへの尋問がはじまります。ロザリは正直にジュリアンに襲われて関係を持つようになったことを打ち明けますが、結果としてロザリは子どもともに屋敷を追い出されます。いっぽうのジュリアンとはピコ神父の説得もあって離婚はしませんでした。

●息子・ポールが誕生

 やがてジャンヌも妊娠していることが発覚します。レ・プープル屋敷から離れ、苦しい妊娠期を経て、息子ポールが生まれます。そのあともポールへの相続財産などの件でジュリアンが男爵(父)ともめたりもしますが、ジュリアンに対してすっかり幻滅していたジャンヌはポ、ールこそが自分にとっての幸福の源泉だと感じるようになるのでした。

●フールヴィル伯爵夫妻と仲良くなるが…

 その後、ジャンヌ夫妻は近所に住んでいたフールヴィル伯爵夫妻と仲良くなります。伯爵夫人であるジルベルトとも良い友人関係を築くジャンヌでしたが ある朝、森の中でジュリアンとジルベルトの馬が一緒に繋がれているのを目撃します。彼らを探そうとしたジャンヌですが、森のなかで交尾をしている鳥を見たときに、ふたりの関係を悟ります。真相を悟ったジャンヌでしたが、二人を探すのをあきらめてその場をあとにしました。


●母・アデライトが亡くなり、衝撃の過去を知る

ジュリアンとジルベルトの秘密を胸に抱くジャンヌでしたが、母の病状が悪化して、ついに母が亡くなってしまいます。葬儀のあとで、母がしまっていた手紙を読むジャンヌでしたが、ある男からの愛の手紙があり、信頼していた母親にも、不貞の過去があったことを知り、ジャンヌはますます周囲に対しての不信感を強めていくこととなるのでした。

●トルビアック神父が伯爵へ告げ口して…

 ピコ神父が転属となり、新しい司祭・トルビアック司祭がジャンヌらの村へとやってきます。彼はジュリアンとジルベルトの不貞行為を発見すると、妻であるジャンヌのもとを訪ねます。しかしジャンヌがその問題に目を瞑り、非協力的だということを悟った神父は、じきじきに伯爵へと不倫のことを告げます。

 純粋だが、妻ジルベルトを異常なほど愛していた伯爵は、悪天候の中、移動小屋で情事にふけっているふたりを見つけると、小屋ごとふたりを谷底に突き落とします。

 後日、ふたりの遺体は発見され、ジャンヌは夫を失うこととなります。そんななか、ジャンヌはさらに2人目の女の子も死産するのでした。


●時は過ぎ、息子・ポールの非行が目立つようになる

 夫を喪失した痛みも、時間によって薄れつつあったジャンヌでしたが、今度は息子ポールの問題がジャンヌを襲います。

 勉強嫌いで、アデライト(母)の妹であり、レ・プープル屋敷に住むようになったリゾン叔母から甘やかされて育ったことなども原因で、ポールは15歳になるまで学校に行きませんでした。それでも男爵(父)の計らいなどもあって、レ・プープルではなくル・アーヴルの学校へポールは通うようになります。すると不安とは裏腹にポールは熱心に学校へ通うようになります。

 しかし学校へ入って5年目になった頃、ポールが学校に一ヶ月以上通っていないことや、多額の借金をしていること、女性と交際しているなどという事実が発覚していきます。

 それによりポールは家へと引き戻され、監視のもとで暮らすこととなりますが、ポールはすぐに脱走してしまいます。それからまもなく手紙が届き、ロンドンで愛する女性と暮らしているということを知ります。それからたまに手紙を寄越すようになるポールでしたが、よこしてくる手紙の内容は経済的援助を求めるものばかりだった。そのたびに男爵(父)は、土地を抵当に入れて、ポールの言う通りにするのでした。

●父・叔母も立て続けに亡くなってしまう

 ポールの手紙を待つような日々が続くなかで、ポールの借金による苦労がたたったのか男爵(父)が脳溢血で亡くなります。さらに一緒に住んでいたリゾン叔母も気管支炎で亡くなってしまいます。ジャンヌが頼りにしていた人物が次々に亡くなり、ついにジャンヌは孤独になってしまうのでした。


●孤独のなか、ロザリが屋敷に戻ってくる

 孤独と喪失に打ちひしがれるジャンヌでしたが、かつて追い出されたロザリが屋敷へ帰省します。ロザリはかつての恩を返すためにジャンヌの世話をするようになります。そのなかでロザリは、屋敷の人や物をすべて掌握した上で、出費の元凶となっているレ・プープル屋敷を売ることを勧めます。最初は拒否していたジャンヌでしたが、生活のために最終的には売ることは避けられませんでした。


●ポールを追いかけてパリへと向かう


まもなく、ポールから手紙が届きます。それは結婚の承諾を得たいという内容のものでした。ジャンヌは嫉妬とロザリからの説得もあって、「私とその女とどっちを選ぶのか」といった趣旨の手紙を書いた上で、返事が届く前にみずからポールのいるパリへ行くことを決心します。しかし、債権者から追われて逃げたポールと行き違いとなり、ジャンヌはポールに会うことはできませんでした。

●ポールの赤子を引き取って…
 パリでポールに会えず、ひどく落胆するジャンヌ。それからはもう外出しようとせず、惨めな人生を振り返る日々を送るようになります。

 そこへ、ふたたびポールから手紙が届きます。それは「妻が子どもを産んだが死にそうで、自分では育てられそうにないから子どもの面倒を見て欲しい」といった趣旨の内容だった。衰弱したジャンヌに代わり、ロザリがパリへと向かい、赤んぼうを引き取りに向かいます。

 後日、駅ホームで待っていると、赤んぼうを抱いたロザリが帰ってきます。ジャンヌはロザリから赤んぼうを抱き受けます。さらにロザリからポールも帰ってくるという報せを受けるのでした。愛おしそうに赤んぼうに口づけするジャンヌ。それを見たロザリが「ねえ、ジャンヌ様、人生ってのは、皆が思うほど良いものでも、悪いものでもないんですね」と付け足します。


酸いも甘いも、さまざまなことがあるのが人生なのだー--そんなふうに思わされるようなロザリの言葉で、物語は幕を閉じます。





文章抜粋


人類最初の人間の心をどきりとさせ、また人類最後の男女の心をときめかせるような瞬間というものがこの世にはいくつも存在する。だが、そんな瞬間を経験した者は誰であれ、自分がこの世で初めてその感覚を得たのだと思い込んでしまうものなのだ。
 

●ここに横たわっている母、ママン、お母様、アデライト男爵夫人は、もうこの世の人ではないなんて。母はもう動かない。喋らない。笑うこともない。


そして、ロザリは、自身の思いに応えるようにつけ足した。
「ねえ、ジャンヌ様、人生ってのは、皆が思うほど良いものでも、悪いものでもないんですね」(最後の一文)





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作者について

 ギ・ド・モーパッサン

 フランスの作家。代表作は「女の一生」「脂肪の塊」など。特に多くの短編を遺しておりその数は200を超える。小説だけでなく劇作家や詩人などの顔も持っている。


同じ作者の他作品

長編
  • 女の一生』1883 ※今作
  • 『ベラミ』1885
  • 『モントリオル』1877
  • 『ピエールとジャン』1887-1888
  • 『死の如く強し』1889
  • 『我等の心』1890
短編集
  • 『テリエ館』1881
  • 『マドモワゼル・フィフィ』1882
  • 『山シギ物語』1883
  • 『月光』』1883
  • 『ミス・ハリエット』1884
  • ロンドリ姉妹』1884
  • 『イヴェット』1885
  • 『昼夜物語』1885
  • 『トワーヌ』1885
  • 『パラン氏』1886
  • 『ロックの娘』1886
  • 『オルラ』1887
  • 『ユッソン夫人の善行賞』1888
  • 『左手』1889
  • 『あだ花』1890
  • 『行商人』1900
戯曲
  • 『剥製の手』1875
  • 『聖水授与者』1877
  • 『壁』1880
  • 『脂肪の塊』』1880
  • 『狂人の手紙』1885

詩・詩集
  • 『水辺にて』1876
  • 『詩集』1880

旅行記
  • 『太陽の下に』1884
  • 『水の上』1888
  • 『放浪生活』1890


同じ年代の有名作品
  • 「宝島」ロバート・ルイス・スティーヴンソン(イギリス1883)
  • 「ピノッキオの冒険」カルロ・コッローディ(イタリア1883)
  • 「ツァラトゥストラ」フリードリヒ・ニーチェ(ドイツ1883-1885)

同じ国の有名作家
  • ギュスターヴ・フローベル(フランス)
  • アナトール・フランス(フランス)
  • ジョリス=カルル・ユイスマンス(フランス)



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2.社会データ


歴史的背景


1833年フランスは、1830年頃に成立した七月王政の治世にありました。その前にはナポレオンの第一帝政があり、そのあとには共和政を経て、ふたたびナポレオンによる第二帝政が敷かれるなど、政治的混乱の多い時代だったと思われます。


社会に与えた影響



●「二人の女の物語(老妻物語)」アーノルド・ベネット


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イギリスの作家アーノルド・ベネット氏は、この「女の一生」に影響をうけて、「二人の女の物語(老妻物語)」を創りあげたと言われています。


メディア化





最新版は2017年の映画となっています。美しいヨーロッパの情景と人生の哀愁が絡み合った映画となっていました。>>Amazonビデオ

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映画『女の一生2017』感想・考察レビュー





また1967年の、岩下志麻主演の「女の一生」をはじめとして、各国でリメイク・リバイバルが数え切れないほど行われています。>>U-NEXT






3.類推データ


ココがスゴい!


ある女性の生き様がリアリティーを持って描かれている!

 19世紀初頭に生きた女性の人生を、少女から壮年にいたるまで余すことなく描かれている丁寧さが魅力的です。大抵のエンターテイメントはネガティヴな要素が排除され、恋愛や人生における理想の形が描かれがちですが、今作はそういったある種のご都合主義を無視して、不貞を行う夫、乳姉妹の裏切り、両親の悲しい死、ダメ息子の非行など、現実の人生でよく起こりうる悲劇が欺瞞なく描かれているため、異様なリアリティーを持ってして、人生の真実を突きつけてきます。現実逃避を求める読者からは嫌悪される作品かもしれませんが、ある程度の人生経験を積んだ大人が読めば、共感できる部分の多い作品なのかなと思います。



似ている名作



●「クリスティン・ラブランスダッテル」シグリ・ウンセット


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ノルウェーの女性作家「シグリ・ウンセット」が描いた超三部作であり代表作。14世紀に生きた女主人公”クリスティン”の生から死までを描ききった作品となっています。夫への幻滅、あるひとりの女性の人生を描ききった作品という点など、作中時代は違えど共通点の多い名作かと思います。ただ現時点では日本語訳がないため、英語版のみが流通しています。



似ている最近の作品



●「メアリーの総て」


視聴リンク >>Amazon >>U-NEXT >>dTV >>Hulu >>Netflix

「フランケンシュタイン」の作者メアリー・シェリーの生涯を描いた伝記映画。裕福な家庭に生まれながらも駆け落ち、そして絶望に堕ちてゆくなかで彼女は「フランケンシュタイン」を生み出していきます。また「女の一生」の時代設定とメアリーの生きた時代は同じ19世紀初期ということもあるため、時代背景もかなり似ている作品かと思います。もしかすると映画を制作する上で、この「女の一生」を参考にしていたのでないかーー?というぐらい似たような流れも視聴のなかで感じました。


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映画『メアリ―の総て』感想・考察レビュー




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Author: meisaku

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