「帰郷」あらすじと解説・登場人物や舞台 トマス・ハーディ

ヒトコトあらすじ


 ある町の、男と女たち。それぞれの恋が交錯してゆくが、最終的には登場人物のほとんどが不幸に陥る、という物語となっています。


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●1.基本データ
 Lキャラクター構成
    L舞台設定
 L詳しいプロット(展開)
 L文章抜粋
 

●2.補足データ
   Lココがスゴい!
 L似ている名作
 L似ている最近の作品 
 Lメディア化


●3.作者について
  L同じ年代の有名作品
        L同じ国の有名作家



1.基本データ



初刊:1878年 :トマス・ハーディ
長さ:長編 ジャンル:恋愛・悲劇


キャラクター構成



クリム・ヨーブライト・・・・帰郷してくる男。故郷に学校を開設することが夢。ユウステーシアの夫となる。ヨーブライト夫人の息子。

ユウステーシア・・・・エグドンの美しい娘。婚約者のいるワイルディーヴと不倫関係となり、くっついたり離れたりを繰り返す。クリムの妻となる。

デイモン・ワイルディーヴ・・・トマシンの夫となるが、ユウステーシアとの不倫関係を断続的に続ける。

トマシン・ヨーブライト・・・・ワイルディーヴの妻になる。クリムの従妹。ヨーブライト夫人の娘。

ディゴリー・ヴェン・・・・紅殻屋。トマシンにかつてフラれた身分の低い男。事の顛末を見届けたのち、トマシンと結婚する。

ヨーブライト夫人・・・・クリムとトマシンの母。



舞台



エグドン・ヒース
・・・イングランド南西部地方・ドーセット州にある荒野に与えられた作中での地名。



詳しいプロット(展開)



●結婚前の娘・トマシン

 紅殻を積んだ馬車を引く男、ディゴリー・ヴェンは、かつて告白するも結ばれなかった女性、トマシン・ヨーブライトを馬車に乗せていた。  
 彼女にはデイモン・ワールディーヴという婚約者がおり、結婚するために他の町へとでかけていた。しかし結婚許可の書類を忘れてしまったため挙式できなかった。
 彼女が恥ずかしさを抱えながら教会を出たところ、ディゴリーの馬車が通りかかったため、家までの送迎を頼んだという経緯があった。 


●ワ―ルディーヴとユウステーシア、危険な関係

 いっぽう、結婚式の延期を知ったトマシンの母・ヨーブライト夫人は、早く娘を結婚させようと躍起になっていた。
 というのも、娘の夫となるワールディーヴに本当に結婚の意思があるのか、かねてから疑っていたからである。  
 実際、ワールディーヴはユウステーシアという美しい娘と不倫しており、定期的に密会を続けていた。  


●ディゴリーの決断

 まもなく、紅殻屋のディゴリーが、ふたりが不倫関係にあるという噂を偶然耳にする。彼は真相を確かめようとする。そして、彼らが密会するところを目撃する。ワールディーヴが、荒野嫌いなユウステーシアを気遣って二人で駆け落ちしようと提案しているのを聞くことになります。
 ディゴリーにとっては、かつての想い人だったトマシン。その彼女の幸せが破壊されようとしている事に同情したディゴリーは、ユウステーシアにワールディーヴから手を引いて二人をしっかり結婚させて欲しいと頼もうと決心を固めた。


●ヨーブライト夫人の策略

 ディゴリーはユウステーシアを説得したが、うまくはいかなかった。そこでディゴリーはトマシンの母・ヨーブライト夫人に二人の事を告げ口する。
 それを聞いたヨーブライト夫人は、ワールディーヴに対し、娘トマシンにはまだ別の結婚相手の候補がいるように匂わせた。
 するとワールディーヴは嫉妬からか再びトマシンに心を戻しはじめた。


●クリムの帰郷

 そんな折、ヨーブライト夫人の息子でありトマシンの従兄にあたるクリム・ヨーブライトが、パリより帰郷する。  
 ユウステーシアはこの謎めいたクリムの噂を聞き、たちまち興味を抱く。そして彼の歓迎パーティに男装した役者として潜入して彼と接触する。するとクリムのほうも、男装した彼女を不思議に思い関心を抱きはじめた。
 ユウステーシアはすっかりクリムの虜となり、ワールディーヴとの交際をきっぱりやめる。ユウステーシアに愛想つかされたワールディーヴは嘆いたが、せめて彼女を悔しがらせようとトマシンと結婚した。  


●クリムとユウステーシアの恋

 いっぽうのクリムは、パリへ戻るつもりはなく、故郷エグドンで無学の人々のために学校を開設しようと考えていた。
 母親であるヨーブライト夫人はその考えに否定的だったが、ある時ユウステーシアが、自分の子どもが彼女に魔法をかけられてしまったと思い込んだ母親に切りつけられる事件が起きたことで、エグドンの人々になおさら教養を広めなければならないという意識を高めた。
 そしてクリムはユウステーシアに自分の学校の教諭として働いてほしいと頼み込む。だがその交渉のうちに、二人はすっかり恋仲になってしまう。  

●母子の絶縁

 ユウステーシアを嫌うヨーブライト夫人は、彼女と息子の交際を快く思わず、次第に母子間に亀裂が生じていく。そして二人が結婚したのを機に、クリムとヨーブライト夫人は絶縁状態となった。  
 しかし、息子との絶縁状態に耐えかねたヨーブライト夫人が、息子夫妻にお金を送ることで少しずつその仲を戻そうと企てます。しかし遣いの男が金をギャンブルに使い込んだ事を機に、色々な行き違いが生じてしまう。
 結果としてヨーブライト夫人の仕送りはユウステーシアとの口論の火種となり、ヨーブライト夫人はかえって息子夫婦に嫌われてしまうことになる。   

●不仲な夫婦関係

 ヨーブライト夫人との絶縁後、クリム夫妻の結婚生活はうまくいっていなかった。
 荒野嫌いなユウステーシアが、パリへ戻って暮らしたいと要求するもそれが拒否されたり、クリムが視力の低下によって、教養職から不遇な転職をせざるを得ない状況になったりと、特にユウステーシアは自身の境遇を惨めに思い始めていた。
 そんなある日、祭りに出かけたユウステーシアはワールディーヴと再会する。そして彼と踊り狂ううちに、一度消えたはずの恋心が再燃しはじめる。
 だがその様子を、紅殻屋ディゴリーがしっかり観ていた。彼はヨーブライト夫人にその事を告げ口した上で、息子夫婦のためにも今一度仲直りするべきだと進言。ヨーブライト夫人はまもなくそれを承諾した。

●おもいがけない死

 ヨーブライト夫人は和解のため、息子夫婦の家へ向かう。日差し照りつける荒野のなかを進み、まもなく夫婦の家が遠くの方へ見えてくる。
 玄関に男のような人影を捉え、しばらくするとまた別の人影が入っていくのが見えた。その男はワールディーヴだったが、遠くだったためヨーブライト夫人には判別つかなかった。
 まもなくヨーブライト夫人が戸口を叩くが誰も出てこなかった。
 彼女はきっと自分が拒否されたのだろうと思い、哀しみにひしがれながら来た道を戻るが、その途中でヘビに足を噛まれてしまい命を落とした。

●駆け落ちの誓い

 まもなくヨーブライト夫人の死の真相を知ったクリムは、浮気をした上に母を出迎えなかったユウステーシアをひどく責めたてる。
 ユウステーシアは自責の念に駆られ、自殺を図る。しかし忠誠心熱い使用人によって阻まれ失敗に終わる。
 人生に絶望したユウステーシアは、ワールディーヴのもとへ向かう。そこで意気投合したふたりは荒野から出ていこうと駆け落ちを誓い合った。  
 いっぽうトマシンに説得され、クリムは妻への和解の手紙をしたためていた。しかしその手紙がユウステーシアに届くことは無かった。

●駆け落ちの果て

 ワールディーヴとの駆け落ちの日。出立したユウステーシアは堰から落ちて水死したのである。それが事故であったのか、自殺だったのかは定かではない。悲劇は続く。
 彼女を近くで待っていたワールディーヴが彼女を助けるために堰に飛び込み、続いてクリムも飛び込んだ。
 まもなくディゴリーによって三人が引き上げられるが、生き残ったのはクリムだけだった。 ※初版はここで終わるが、あとから後日談が追加されている 

●後日談

夫を失ったトマシンは、まもなく誠実なディゴリーと結婚した。  いっぽうのクリムは学校を開設するという目的は果たせなかったとのの、巡回説教師として、人に教養を与える人物として生きがいを見出した。





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文章抜粋


●十一月の、とある土曜の午後、それもたそがれに近づくにつれて、エグドン・ヒースとして知られるこの邊一帯の廣々と果てしもない荒野原は、刻々に焦茶色に變って行った。
(冒頭の一文)

陸軍の軍樂隊、將校達、伊達男連中などで犇めいている午後の陽射しを受けた散歩道路のロマンチックな思い出が、いまの自分をとりまく、エグドンという暗い額板の上に、まるで金文字のように燦然と浮き出ていた。荘重な荒無地(ヒース)な渋味に、光りあやなす海邊遊覽地のきらびやかさが、出たらめにからまり合っているところから湧き得るあらゆる面妖な効果というものこそ、ユウステーシアの中に見出されるわけだった。

●二人の黑い姿が夜空を背(そびら)にだんだん沈んで行って、やがて見えなくなった。それは遲鈍な荒無地がまるで軟體動物のように、頭から突き出していた日本の角を、そうっとまた引っこめたような具合だった。

●ただ一つ、この嵐の驚きを絕ち越えて響く音がある。それは、この邊りの荒無地の境界線となっている牧草地の川を南に堰き止めた大堰が、十個の水門から漲り落ちる奔流の轟きであった。




2.雑多データ


ココがスゴい!


●とにかく美しい文章体

読んでいるだけでも目のよろこぶような、美しい文章が並んでいるのがこの作品の魅力でした。上記の抜粋文のような文章体がどこまでも続くため、ストーリー展開を無視して、まるで叙事詩や詩を眺めているときのような気分にも陥りました。


似ている名作


●アンナ・カレーニナ

ロシアの名文学。今作とも国は違えど、出版年はかなり近いです。「駆け落ちする男女の悲劇」という点において、かなり似通った作品になっているかとおもいます。


似ている最近の作品


●アンナ・カレーニナ(2012映画)

上記「アンナカレーニナ」のリバイバル版映画。キーラ・ナイトレイ、アーロン・テイラー・ジョンソン、ジュード・ロウといった有名俳優らが出演しています。



メディア化


●帰郷/荒れ地に燃える恋

1994年に今作を原作とした映画が製作されています。



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3.作者データ

 トマス・ハーディ

 イングランド(イギリス)の作家・詩人。代表作に「カスターブリッジの市長」「日陰者ジュード」などがある。

    長編小説

    • The Poor Man and the Lady. 1867年
    • 『窮余の策』Desperate Remedies. 1871年
    • 『緑樹の陰』Under the Greenwood Tree. 1872年
    • 『青い眼』A Pair of Blue Eyes. 1873年 (『Tinsley’s Magazine』誌 1872年9月-1873年7月連載)
    • 『遥か群衆を離れて』Far from the Madding Crowd. 1874年
    • 『エセルバータの手』The Hand of Ethelberta. 1876年
    • 『帰郷』The Return of the Native. 1878年
    • 『ラッパ隊長』The Trumpet-Major. 1880年
    • A Laodicean. 1881年
    • 『塔上の二人』Two on a Tower. 1882年
    • 『カスターブリッジの市長』The Mayor of Casterbridge. 1886年
    • 『森に住む人たち』The Woodlanders. 1887年
    • 『テス』Tess of the d’Urbervilles. 1891年
    • 『日陰者ジュード』Jude the Obscure. 1895年
    • 『恋魂』The Well-Beloved. 1897年(1892年から連載)
    • (Florence Hennikerと共著)The Spectre of the Real. 1894年

    短篇集

    • 『ウェセックス物語集』Wessex Tales. 1888年
    • 『貴婦人たちの物語』A Group of Noble Dames. 1891年
    • 『人生の小さな皮肉』Life’s Little Ironies. 1894年 
    • 『変わりはてた男とほかの物語』A Changed Man and Other Tales. 1913年

    同じ年代の有名作品
    • 「処女地」イワン・ツルゲーネフ(ロシア1877)
    • 「人形の家」ヘンリック・イプセン(ノルウェー1879)
    • 「デイジー・ミラー」ヘンリー・ジェイムズ(イギリス1879)
    同じ国の有名作家
    • ヘンリー・ジェイムズ(イギリス)
    • ロバート・ルイス・スティーヴンソン(イギリス)
    • ジョージ・エリオット(イギリス)


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    Author: meisaku

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